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誰もが胸の奥をチクリと突かれるようなタイトルの本があります。それは『冷蔵庫で食品を腐らす日本人』(朝日新書、777円)、著者は食生活研究家で有名な魚柄仁之助(うおつか・じゅんのすけ)さんです。魚柄さんが長年にわたって提唱しているのが「健康的で無駄のない食生活」です。
この書籍では、冷蔵庫の話題を入口に、食文化から食料自給率、地球環境問題までを舌鋒鋭く論じています。以下、農林水産省の広報ホームページでの魚柄さんのインタビューを紹介します。
「冷蔵庫と向き合ってみると、日本人の食生活の激変ぶりがよくわかってくる。食材の質的変化、嗜好の変化、流通の変化、環境や健康に関する意識の変化...冷蔵庫って、実に多くのことを考えさせてくれる生活道具なんです」
そして言う、
「いまや家庭の冷蔵庫は食品の墓場と化している」
と。
「不要な買いだめや食の浪費など、現代ニッポンの飽食は冷蔵庫の巨大化によってもたらされた」
のだと。
「24時間、365日、同じ食品が変わらず店頭に並んでいる......このことを異常だと思わない感覚こそが問題なんです。キャベツが出来すぎてトラクターでつぶしている畑のようすをテレビで見て『なんてもったいない!』と感じる人は大勢いる。でも、テレビを見終わってスーパーへ行けば、いつものように冷蔵庫の肥やしを大量に買い込んでくるというのが、現代日本人の普通の感覚です」
「仮に、家庭菜園で野菜を育てていたらどうですか。ある作物がいっぱい採れたときには、調理法を工夫して何日でも食べるでしょう。不足しているときには別の食物を食べればいい...これを貧しいと思う感覚はいびつだと思うんです」
魚柄宅の台所をのぞかせてもらった。狭いながらも必要最小限の道具が整然と並び、揃いのガラス瓶に入ったお手製の乾物が整列している。
「台所はコックピット。機能性が大切で、広さは必要ないんです」
小ぶりの冷蔵庫を開ければ、中には日本酒の5合瓶が2本と、保存用に調理された食品の密閉容器がいくつか入っているのみ。
「残った魚の切り身は、冷凍庫に入れると味が落ちます。でも酒粕や味噌に漬けておけば、料亭の味に変身する。余ったダイコンも野菜室に入れるのではなく、切ったあと2~3日天日干しにしてからしょうゆ漬けにすると、保存性も味もバツグンです」
「多分、僕ほどよそのお宅の冷蔵庫をたくさん見てきた人間はいないと思うんですね。普通、冷蔵庫は家庭のプライバシーですからあまり他人には見せたくない。そうして扉を開けてみると、もう今日中に使ってしまわないと明日腐るというものばかり。野菜もしなびて肉もあぶない、卵もそろそろ......だいたい8割方がそんな食材です。何のためにここまで買い込んだのか分からない。別に人里離れた山奥じゃなく、毎日新鮮な食材を買い物に行ける場所に住んでいる人たちなんですよ」
「夫婦2人暮らしで冷蔵庫5つ持っている知人もいます。冷蔵庫を開けると味噌が4つくらい入っていて、みんな封が切られて口がカピカピに乾いている。『どうして使い終わってから次のを開けないんだ?』って聞くと、『だってレシピに西京味噌って書いてあったから』って(笑)」
「本を書く少し前に、カミさんの田舎の実家に遊びに行ったんですが、お母さんは80歳の1人暮らしなのに400リットルの巨大な冷蔵庫がパンパンで、その9割方を腐らせてるんです。冷凍庫なんか、手前の10cmから奥はガチガチの永久凍土と化していて、ドライヤーで氷融かして中のもの引っ張り出したら、なんと1994年の冷凍コロッケも出てきた。臭いのする古い卵を捨てようとすると、『若いもんは食べ物を大事にしない』って(笑)。お年寄りは食べ物を粗末にしてはいけないという気持が強いですから、なんでもかんでも『もったいない』と冷蔵庫に詰め込んでは次々と腐らせていくんです。こうなると冷蔵庫はトランクルームというより、もはや墓場です(笑)」
「僕が見てきた多くの冷蔵庫は、大なり小なり同じような境遇にあるわけです。新しい野菜を買ってきては冷蔵庫のしなびた野菜を捨ててしまう。あるいは、せっかく新鮮な野菜を買ってきたのに、もったいないからと、いつもしなびた古い野菜ばかり食べている。だから日本人はここで一度懺悔しないとしょうがないだろう、と。そんな思いを込めて本の帯には『食べ物さん、ごめんなさい!』と大きく入れました」
冷蔵庫の巨大化と食の変化は実に密接に関連しているんですね。

「口では『国産の安心で安全なものを食べたい』と言いながらも、全然買い支えていない。国産肉も国産の飼料で育ったものでなければ自給率は反対に落ちてしまいますが、それは『高いからイヤだ』と言う。結局、生産はよその国に丸投げし、そこの貴重な水や土地を使わせ、化石燃料も大量に消費させている。自分たちはというと、外食をしては食べ残し、次々と食品を買い込んでは冷蔵庫に押し込んで、使い切らずに腐らせる」
「気がつけば日本人は歴史上もっとも恥知らずな国民になってしまったんですよ。だから僕が言いたかったのは、日本人ここで1回立ち止まろうよ、自分の暮らしを見つめ直して、ちょっとはスケールダウンしようよ、と。環境問題を考えるなら、まずは家の冷蔵庫を見直すことから始めてほしいですね。僕は口で言うより自分でやってみせなきゃと思って、本当に必要なものだけを買う生活を実践しています。カミさんと2人暮らしのウチの冷蔵庫は200リットルくらいの中型2ドアですが、それでも大き過ぎるくらいですよ」
冷蔵庫について考えてみることで、冷蔵庫が普及する以前の、日本人の食に対する姿勢や知恵が見えてくる。
そして魚柄さんは、現代の日本人に「幸せな食生活」とは何かを問いかける。
「ここ数十年で『ごちそう』って圧倒的に少なくなったでしょ。僕らが子どもの頃は、年に1度か2度、家族揃っての外食が"お祭り"だったし、そこで食べたハンバーグは、その後何十年も記憶に残るほどの『ごちそう』だった。持続可能な食環境って、何も難しいことじゃない。"ささやかな幸福感を知る"ってことだと思うんです」
家計を圧迫せず、安全な食べ物を食べ続けるには持久力が必要です。賞味期限と言う「目安」にまどわされることなく、自力で賞味期限を大幅に延長させるのも大切な技術です。魚柄さんはこのような食生活を25年続けて、原理原則に気づいたのです。
2010.04.17